フォトクロミック結晶と近接場光学、そして数学に基づく順序構造認識

フォトクロミック結晶に近接場光を作用した際に現れるナノ光異性化経路と、シューベルトカリキュラスの方法を用いて、順序構造を認識したことを報告しました。内山、堀(山梨大学)、中島、鈴井、Chauvet、堀崎、成瀬(東京大学)、西郷(長浜バイオ大学)、内田(龍谷大学)による共同研究です(敬称略)。

フォトクロミック結晶におけるナノ光異性化経路を、独自の試料表裏ダブルプローブ近接場光学顕微鏡を用いて、形成・計測し、さらにその実験データをもとにシューベルト行列を生成する研究を、別の論文で報告していました。シューベルト行列は、順序を表す一般的な行列ですが、ナノ光異性化経路から量子的に計測される光子の情報で生成することで、高度な相関を有する行列の群となります。本論文では、この順序行列群と、解きたい順序問題を、シューベルトカリキュラスの方法で関係付け、順序問題の中の順序構造を認識することに成功したことを報告しました。

なぜ順序構造をうまく認識できるのかについては現在も研究を続けているところですが、ナノ光相関で生成した行列は、他の擬似的相関で生成した行列よりも高い性能を有することが分かっています。今後は、ナノ光相関をフォトクロミック結晶中に形成する際の履歴依存や、問題自体が量子相関を持った系での性能評価など、研究をさらに発展させていきます。

掲載論文:
Order recognition by Schubert polynomials generated by optical near-field statistics via nanometre-scale photochromism
Kazuharu Uchiyama, Sota Nakajima, Hirotsugu Suzui, Nicolas Chauvet, Hayato Saigo, Ryoichi Horisaki, Kingo Uchida, Makoto Naruse & Hirokazu Hori
Scientific Reports volume 12, Article number: 19008 (2022)
論文掲載ページ( https://www.nature.com/articles/s41598-022-21489-6 )

上記掲載論文から引用。Sci. Rep. 12, 19008 (2022)

修士2年の荒川君が応用物理学会の秋季学術講演会で発表しました。

応用物理学会の第83回秋季学術講演会が東北大学(仙台市)で開催され、修士課程2年の荒川君が口頭発表を行いました。フォトクロミック結晶中の自発的ナノ光異性化経路形成現象における履歴特性を上下ダブルプローブ走査型プローブで観察し報告したものです。

どんな研究か少し紹介します。

現在の発達した計算機を持ってしても解くことが難しい問題はたくさんあります。中でも、問題の設定自体が時々刻々と変化するような問題を解くことは大変ですが、日常の問題はそのような問題ばかりです。そんな難しい問題を人間を含む生物は巧みに解いているように見えます。その生物の働きを真似して、新しい計算システムを作るという発想があります。

さまざまなアプローチがありますが、人が完全には制御できない物理現象を使うことが鍵になります。人が制御出来ることであれば通常の計算機でも容易に再現できるでしょうから。

私たちは、光で色が変わるフォトクロミズムに注目し、フォトクロミック分子がきれいに整列したフォトクロミック結晶に、ナノサイズの光を加えると、光の通る道の枝分かれ構造を生む、とても複雑な物理現象が起こることを見出しました。作用させるナノサイズの光をイベントだと思えば、枝分かれ構造は記憶と見ることもできます。

光と物質の相互作用が生むこの物理現象は、光の可能性と、物質の可能性を掛け算できるので、とても魅力的です。

荒川君は、世界で類を見ない走査型プローブ顕微鏡を使い、結晶試料を2つのナノ探針で挟み込んで、複雑現象の発生とその場観察を行い、記憶の重ね書きや消去について履歴特性を解明しています。

詳しい内容については関係する下記preprintを御覧ください。

History-dependent nano-photoisomerization by optical near-field in photochromic single crystals
Yuji Arakawa, Kazuharu Uchiyama, Kingo Uchida, Makoto Naruse, Hirokazu Hori

2名の学部生が卒業しました

研究室の学部生2名、若林君、渡辺君が本日卒業式を迎えました。4年間、勉強、研究や課外活動に取り組み、卒業を迎えられたこと、本当に喜ばしいことです。おめでとうございます。

若林君は、3年後期の研究室所属時から、多様な分野の勉強をして輪講での毎回の議論が盛り上がりました。学科や学部の専門にこだわらず興味を持った内容はとことん学ぶ姿勢は、教員や他の学生にとっても刺激になりました。卒業論文では、フォトクロミック結晶の光異性化を電子特性で捉える全く新しい研究を行いました。精力的に実験に取り組み、最初の一歩となる重要な成果を上げるところまで行きました。卒業研究の内容は3月下旬の応用物理学会学術講演会で発表します。今後は他大学の大学院にて、また新たな分野で研究を始めると聞いています。

渡辺君は、やはり多様な分野に興味を持って勉強し、特に4年次の輪講では、数学の中でも抽象度が高い圏論を学び教員や他の学生へ講義を行いました。私たちの研究室のテーマの一つである「フォトクロミック結晶におけるナノサイズの光異性化の解明と応用」でも、圏論は重要な役割を果たしています。卒業研究では、ユニバーサルグリッパーを題材として実験・理論・シミュレーションと多角的に研究を行いました。自分で良く考えて実験計画から解析まで行っていました。今後も新規分野での活動をされると聞いています。

お二人の今後のご活躍に期待しています。まずは健康に楽しく今後の日々を歩まれますことを心よりお祈りします。

(文責:内山)