佐藤哲也研究室

「宇宙に学ぶ新エネルギー材料創製」

研究目的:
「プラズマと固体表面の相互作用の解明と新規材料合成の低温合成法の開発」

宇宙は99%以上がプラズマの状態で、電子、イオン、原子状の水素(H)が存在しています。Hの波の性質や電子のエネルギーを利用した化学反応を利用して、非晶質シリコン薄膜や、ダイヤモンド状炭素薄膜など、太陽電池や次世代エレクトロニクスに必要な半導体薄膜を低温合成する技術を開発しています(下図)。この方法は原料ガスの9割以上を薄膜に変換できる省エネ型の画期的な製膜技術です。電子ビームやイオンビームと組み合わせれば、ミクロな領域に原子・分子レベルで厚さを制御した極薄膜を作ることができます。また、フッ素を含む温室効果ガスを、付加価値の高いフッ素樹脂薄膜として変換し再利用できるため、環境負荷が小さい技術として応用することができます。

佐藤研2
極低温化学反応とプラズマを利用した薄膜製造装置
佐藤研3

研究方法:
「分子の雪だるまに電子シャワーを浴びせて、新材料を創る」

プラズマは電子、イオンがほぼ同数存在する状態を指します。そこに材料の原料である分子を流すと、電子が分子と衝突し、分子から分解した反応性の高い活性な原子や分子が生成します。真空装置の中で極低温(-263℃)に冷却した鏡面状の基板に材料の素である分子を雪だるまのように積もらせておき、高速の電子シャワーを照射すると、雪だるま状の分子が、励起(エネルギーの高い状態になること)され、分解して小さなサイズの活性な分子や原子になります。それらが互いに手を取り合うことにより固体(薄い膜)を作ることが出来ます。特別仕様の実験室で24時間駆動している真空装置には、分光装置や、質量分析装置が取り付けられていて、化学反応の変化の様子が手に取るようにリアルタイムで観察することができます(装置写真をご覧ください)。実験部品の多くは特別仕様ですので、学生が自ら図面を書き、大学附属のものづくり実践センターで製作してもらうことも可能です。

社会への貢献:
「次世代エレクトロニクス材料、環境負荷軽減技術」

プラズマ中で生起した電子・原子・分子と凝縮層(凍った分子集団)における化学反応の知見は、従来の製造工程の複雑な現象を理解するのに役立つとともに、新しい材料を創成する指針を与えてくれます。我々が開発している合成法は、従来法に比べ環境負荷を軽減できますので、次世代エネルギーデバイス(太陽電池、電池)や医療(生体適合材)、農業など幅広い分野で用いられる機能性素材創成に役立つものと期待されます。

研究室の日々

研究室には、真空装置が大体一人一台の数あります。24時間真空ポンプが作動して小宇宙を実現しています。朝早くから放電装置や表面分析装置の調整を行い、ベストコンディションで貴重な実験が行えるよう心がけています。実験日は昼食をとる間も惜しく、深夜に及ぶこともあります。装置の操作を覚え慣れるまでは先輩や教員が丁寧に指導します。基本的に1人1テーマで研究に取り組み、各々の責任で研究を進めています。
 毎週1回ミーティングを行い研究報告、研究テーマに関する最新の論文紹介、実験に必須な専門事項について輪読形式で学習しています。実験に失敗はつきもの、めげずに頑張れる気力が大事です。月1回程度、懇親会を開催し、鋭気を養っています。

学生からのメッセージ:
「オープンキャンパスにおける研究室訪問の意義」

皆様は現在パソコンやスマートフォンを頻繁に利用していると思います。 私たちはそのような製品には欠かせない半導体に必要となる[薄膜]について研究をしています。学生間の仲も良く、学問の前には先輩・後輩の別はありませんので、自由闊達に議論できます。研究以外でも、大学院の先輩から気さくに多くのことを学べますので、充実した大学生活を送れます! 様々な研究室に、早いうちに訪問して実際に触れたりすることで、学科の特色や研究室の雰囲気やスタイル、関心のもてそうな学問分野を見出すことができると思います。そのうえで、 当研究室のテーマが面白いと思った暁には是非山梨大学に来て一緒に研究をしましょう!

教員からのメッセージ
「実験装置は生き物。真摯に向き合えば応えてくる」

実験屋の研究者にとって装置は研究の成否を握る大事な物です。装置はどれも特別仕様で、その良し悪しは設計した思想に大きく依存します。さらには個性が有り癖もありますので、取り扱う人に応じて正直に応えてくれます。十分に装置の構造や原理を理解しない状態で使えば、不具合が生じても気付かず、壊れてしまう場合もあるので、大切に扱いましょう。装置の放つシグナルを見逃さず注意深くかつ真摯に向き合うように心がけていれば、真の姿(正しいデータ)が見えてくるものです。絶えず“改善(手入れ)”し続ける姿勢が研究には欠かせません。